(日本食品新聞・2002年8月25日号より) HACCP時代の食品加工と微生物 -No.87-  食品関連企業における微生物検査の意義(3) 東京水産大学食品生産学科教授 藤井建夫
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生菌数が107〜108/gになると食品は腐敗する
 腐敗・変敗は食品に元々付着していたり、あとから付着した微生物の増殖によって起こる。 表1は食品の種類毎に代表的な腐敗微生物(腐敗に主導的な役割を果たす微生物) を示したものであるが、その際どのような微生物が増殖するかということやその増殖速度などは、 食品の種類(成分や食塩濃度、pHなど)や貯蔵条件(温度、気相など)によって異なるので、いつも これらによるとは限らないし、また腐敗微生物は必ずしも1種とは限らず、数種が関係することもあるが、 最も一般的に見られる菌群として理解されたい。  多くの食品で腐敗と菌数の間には相関があり、一般に食品中の生菌数が107〜108/gに達すると官能的 にも腐敗と認められることが多いので、生菌数は品質劣化(腐敗)の指標として用いられてきた。また腐敗 に達するまでの時間(日数)は、菌数が少ないほど長くなるので、食品の菌数レベルは品質管理や賞味期限 設定の際には重要な指標となる。
生菌数測定条件を間違うと事故やクレームにつながる
表2は民間団体が独自に設定している賞味期限判定基準の例である。実際にはこの菌数に達するまでの時間 に安全係数(例えば70〜80%)を乗じた時間が賞味期限として設定される。  個々の製品の賞味期限設定はふつう保存試験の結果に基づいておこなわれるが、腐敗微生物の種類や消長は 大変複雑であり、また特定の腐敗細菌を対象とすることは方法的にも難しいので、一般生菌数を指標とするの が一般的である。しかし生菌数測定については次のようなことに留意しておかないと、誤った結果を導くこと になる。  食品衛生法に基づく生菌数の検査では、食品の種類毎に測定条件が定められており、多くの場合、標準寒天 培地を用いて35℃で24〜48時間培養する方法が常用されている。この方法は常温下での食品の微生物汚染や中 温腐敗菌の増殖程度を知るためには有用であり、また食中毒菌の多くが中温菌であるところから、それらによ る汚染の可能性を示す目安ともなる。  しかし、微生物の種類は多種多様であり、温度やpH、食塩、酸素などに対する増殖特性、栄養要求性などの 面でも様々であるので、どのような培地・培養条件を用いるにしろ、一つの方法ですべての細菌を検出するこ とはできない。上記の生菌数測定で検出される細菌も嫌気性細菌や好塩細菌、低温細菌は除外され、好気また は通性嫌気性の中温細菌が主となる。  したがって鮮魚介類やその冷蔵品のようにこの条件では増殖しにくい低温菌や好塩菌が優占するような場合 には、標準寒天培地、30℃培養は不適当なことが多い。一例を挙げると、食塩無添加の標準寒天培地の生菌数 は食塩添加の場合の2〜35%の値しか得られず、また生菌数測定時の培養温度の影響はとくに重要で、35℃培養 での生菌数は20℃培養の値より著しく低く、とくに低温腐敗品またはその凍結品を試料とした 場合には1/103程度の値しか得られないことが多い。参考のため公定法(標準寒天培地で35℃培養)と改変法 (2.5%食塩添加培地で20℃培養)で同一試料の生菌数を比較した結を表3に示す。  この例からも分かるように、賞味期限設定のもととなる生菌数測定に当たっては、その食品の性質(pH、水分 活性、塩分など)や貯蔵条件(温度、気相など)を考慮して、想定される優勢微生物に適した培地や培養条件を 用いることが重要である。優勢菌群の増殖し得ない培地・培養条件で得られた結果を基にして賞味期限設定をす るのは不合理なことであり、かえってトラブル発生の原因となる。